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【AUC】ある夏の日

2期に書いた、ユーマと父親が再開するお話。
なんかこの辺から一期1話位ずつ何か書いてる気がする。
===========

「おいこらのん兵衛。帰った早々バカ飲みしながら、へらへら笑うなよ。何かにとっつかれたか」
 ちょうど客足の切れた黄金の門亭。できたばかりで昼も夜もお構いなしのこの酒場は、今一人の男の貸切であった。
決して弱くはない酒の瓶がすでに数本、屍をさらしている。
「あー? 笑ってるか?」
 カウンターの端-男のこの店での定位置だ-で壁にもたれてにやけていた男が、ようやく気づいたという態で頬をさすった。
 呆れ顔の和臣が肩をすくめながら、新しい酒瓶の封を切ろうとしたとき、
「親父が…生きてた」
 男の、なんともいえぬ感情が混じった応えが、和臣の背中を打った。


 季節は残暑というが、未だ真夏のような日差しは容赦なく肌を火照らせる。それでも秋が近いせいで風が少しだけそれを冷やしてくれるので、ユーマはこの季節が嫌いではなかった。
 ルーンがしばらく前から日銭稼ぎで行っている地図製作で、生まれた村の跡がそのまま残っているらしいという情報を得たのはつい最近のことであった。今はオーラム領内のその地は、かつてギボール戦役でイズレーンから切り取られた地であり、しかし領主の手が回りきらず、荒れるに任せた状態であるという。
 傭兵稼業の中で気の置けない仲間も増え、あわただしい日々がひと段落したので、思い切って確認の旅に出たのだ。
 地図を頼りにオーラムの国境沿いを探索すること数時間、延びきった藪を掻き分けた先に、目的のものはあった。
 
『都筑里』と書かれた子供の背ぐらいの小さな石。
わび住いが数件と奥に少しだけ大きな家。
煮炊き、寄り合い、遊び場と全てのことをこなした広場。

記憶の全てがそこにあった。
いや。もうひとつ。

真新しい墓標。

 全ての家に建てられたそれは、そこに住んでいた者の名を誤りなく刻んでいた。それを一つ一つ拝して、最後に大きな家の墓標の前に立つ。記憶よりも小さく見える、苔むした生家。
「母上…遅くなりました」
 酒で墓標を清めながら手を合わせ、遅参をわび、しばらく無言で過ごした。

 しかし、これをなしたのは誰なのか。
「そちらにいるのは、どなたかな」
 ようやくそんなことを考え出したとき、穏やかな声がユーマの背中を叩いた。老いてはいるが不思議とよく通る声に、はっと振り向く。
 
よい馬よ、と気性の荒いアズールを悠々と撫でて、微笑んでいるのは。
 白髪が混じり背もいくばくか縮んだが、忘れようもないその横顔は。

「……ちょいとここに縁があった者でね。ここをこれだけにしたのは親父さんかい?」
 喉から出たのが「父上」と言う声でなかったことに、ユーマは驚いていた。間違いないのに。もう死んだと思っていた父親に間違いないはずなのに。
「ああ、好きなだけ切り取っておいて結局扱いきれずに打ち捨てられていたのでな。わしはイズレーンの者だが、こういうことをしても誰も気づきもせん。勝手なものだの。お陰で詫びを入れることが出来たが」
 ひとしきりアズールを撫でて、こちらを振り向いた、60に手が届こうかという老人は、ユーマをじっと無言で見つめ、小さく微笑んだ。
「詫び?」
「ああ、勤めに励んだ結果、わしが一番に援軍を送りたかった村に兵を送れなんだ。騒がしいのが嫌いで辺鄙でもいいと思っていたが、都に遠いのは仇だったのう…」
「そうか…よく家々の人間の名前まで分かるなぁ」
「そりゃそうじゃ。一応村の主のようなものであったからな。勤めがあるからなかなか長くは居れなんだが、戸籍ぐらい把握しておるよ。一人を除いてみな死なせてしまった」
 決定的な言葉。「村の主」は大きな家の主。それでも声に出せない。
「一人を除いてってのは…」
「わしの倅だ。女の子と間違えられるような顔立ちで泣き虫だったが人一倍元気でな、どこぞから迷い込んできた狸と一緒に悪戯ばかりしておった。まだ七つになったばかりで、戦が何かも分からぬ頃合だった…。」
「生きてるかもってことか」
「さてな…生きておればお前さんの年ぐらいだろうか。あのときに子供の遺体が確認されなかったでな、生きておればいいと思ってるよ。少しは男らしくなったか、母に似て優男か…」

 家々の真ん中の開けた庭にある煮炊きの跡に同じように薪をくみ上げ器用に火をつける老人は変わらず穏やかで、内緒にしておいてくれんか、などと冗談交じりに言うだけで、ユーマ自身についてのことは深く聞いてはこなかった。
「なあ親父さん、もしその倅が生きてたら名乗るかい?」
遠征用の干し肉をかじりながら思い切って聞いてみる。
「……もう20年以上たつ。この年になるまでわしはあの子を見つけてやれていなかったのに、いまさら親父だなどと言えるものかよ」
 身を切るような苦い思いが篭った声がユーマに突き刺さった。
 いるのだ、ここに! 目の前に!
 叫んでやりたいのに、声が出ない。どうしてなのだろう。
「お若いのがそんな顔をせんでもよかろう。すまんな、グチばかりで」
柄にも無く泣きたくなったのを必死でこらえる。目の前の老人が苦笑するくらいだ、今自分はよっぽど変な顔をしているのだろう。
「………親父さんはイズレーンで今もお役をもらってんのかい」
「ああ、防人だな。この年だ、たいしたお役はもらえんよ。この近くが任地で、ちょうどよい所なのさ。お前さんはオーラムの傭兵かい」
「ああ、俺もギボールの戦のときこの辺で食い詰めてな、たまたま懐が暖まってたオーラム側の傭兵の爺さんに拾われて、爺さんの商売を見よう見まねで覚えて今に至るってクチさ。護衛屋としてそれなりに雇われ先も増えてきて、食うには困らなくなってるよ」
「護衛…衛士か。わしも昔は領主に仕える衛士での。わしの家は代々そういう技術でお仕えする家じゃった。倅がもう少し大きくなったら、そのことを色々と教えてやろうと思っておったのだがな」
「そうかい…」

「お前さん、これからも護衛を続けるかね」
「ああ。使える芸はこれくらいしかないもんでな」
話が途切れ、しゃべりつかれたように二人とも黙り込んだ。しばらく焚き火の火を眺めていた老人がふとユーマに問いかけた。
「そうか。ではせっかくこうして縁も出来たことだ。うちに伝わる衛士の法を貰ってくれんか」
「!…おいおい、家伝て奴だろ。いいのか」
「伝える相手をこれまで見つけてやれなかった情けない親父の罪滅ぼしよ。わしがいなくなればもうこの法は誰も知らぬことになる。既に身を立てられるのであれば要らぬ事かもしれんが、法には罪がないのでな、貰ってやって欲しい」
 ユーマは顔を上げて問うた。
「…もう俺はイズレーンの民じゃないぜ」
「どこでもよいのよ、生きていてくれればの。母はここに眠っておる。わしもそう遠くないときにイズレーンの地で果てるだろう。それが伝わればよい。ただ傍にいてやれなんだ、それだけが心残りでな、もし倅にあうことがあれば、そう伝えてもらえんか。法はその餞別よ」
「ああ…」
 再びこみ上げたものをとっさにこらえようとして、間に合わなかった。

「ふふ…男らしく育っても泣き虫なのは変わらんの」
「……悪かったな…」


「そうか…んでこの夏齢28にしてようやく苗字もちになったわけか。イズレーン的には遅いなあ」
「うっせー、何だ文句あるかー」
「ははは、怒るな怒るな。で、お前さんのほうは何で名乗ってやらなかったんだ?」
「…俺なんて、あの戦で親父も死んだと思って探しもしてなかった。ずっと俺を探してた親父が言えねえってのに、親不孝者が倅でございってどの面下げて言えってんだ」
「頑固親父の倅はやっぱり頑固かい。…ったく」
「あーあーうるせーうるせー」
机に突っ伏して、駄々っ子のようにわめく大男の頭ををぺしぺしと叩いて、イズレーン産の酒を杯3つに注ぎ、かちりかちりとこぼさぬ程度の乾杯をしながら、和臣は笑った。
「…良かったな」
「………うん」

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ちょみっと年表に合わせて修正とか。
この時の黄金の門亭は普通の傭兵酒場でした。ギルド拠点になるのは2年後。
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テーマ : PCゲーム
ジャンル : ゲーム

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プロフィール

草加 涼平

Author:草加 涼平
クトゥルフ同人サークル『ユゴス寄りの者たち』の構成要素。

『英雄クロニクル』
サクセス・ハンゲ鯖
「TRPG(1024)」「暁と黄昏(16s9)」で活動中。

『刀剣乱舞』
相模国 歌仙沼在住。

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