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【AUC】ささめごと・ふたりごと【SS】

久々の英雄クロニクルSS。
ユーマとイルハがぐにゃぐにゃしてるお話。

中に出てくる設定のようなものは、イルハのご実家クライスユニオンさんの設定をもとに、イルハがどう解釈してるかを書いたもの。
残暑の日差しはまだ強かったが、それでも夜になると肌寒く感じる季節になった。
迷い家亭の暖炉に火をいれながら、イルハは重ね着用の服を買おうかと傍らの俺に問うた。

これまでの人生のほとんどが傭兵生活だった俺の持ち物は極端に少ない、らしい。
イルハとこの宿で一緒に暮らすことになった時に、まとめて背負える程度の大きさの竹の行李が二つと、武器防具と野営の道具などを指してすべての私物といったら、呆れられた。

今の自分がモノや人に対する欲の薄い事は自覚している。
オーラムという国もその気性に随分とあっていて、必要な時に買えばいいという癖がついてしまい、不自由を感じることがなかったのだ。
当然服にも大して頓着しないので、この辺は自分が何とかしてやらないといけないのだと、彼女は思っているようだった。

そだな、と短く答えた俺は、2階から持ってきた毛布をかぶり、暖炉の前のソファでイルハを手招きする。
火の様子が落ち着いたのをみて、傍らに腰かける彼女の背中を抱えるように抱きすくめ、肩口に顔をうずめた。

―なに、どうしたの。
―ん、なんでもない。

そんな短いやり取りで、イルハはただ単に俺が甘えたいのだと察してくれた。
自分よりもずっと大きな男が、時々こんな稚気を向けてくるのが可笑しいのか、へへ、と笑う俺に彼女もくすりと笑みをもらした。


ごめんな、イルハ。
どのくらいそうしていただろうか、心地よい無言の時間をやぶったのは、ユーマのそんなつぶやきだった。
ここあたりの無い謝罪に私が訝しむと、んー、あー、と歯切れの悪い呟きの後、

―お前を引っ張り込んじまったこと。

黄昏の領域の刻碑石にその名を刻まれ、同じ3年間を繰り返す巡りの中にいるユーマとともに、その流れに取り込まれた。
初めて巡りを迎えた時は、とても奇妙な気分だったのを覚えている。

―「今の」過去にお前はいないことになってて。
―俺には離れてても親父がいるけど、お前は俺のせいで「前の」過去から切り取られて、もう誰とも逢えないことになってて。

大きくなってもいつまでも子供気分が抜けなくて、目の離せなかった弟クウザ。
その弟が慕っていた、家伝の魔導器に呑まれた兄ガラハ。父母や姉。
その全てに少なくとも現在は逢えない。

―でもそれはあなたのせいじゃない。オーファムがやったのよ。
―もう何度も話したでしょう?

私がこの巡りの中に身を置くことになる直前、クウザは兄の暴走を止められず、その手で兄を討った。
その結果を良しとしないものがいた。
オーファム。兄とともにあり、禁術へ手を染めた男。
この歴史をやり直すのだといって、なんと過去に―997年よりも前に飛んでいった。
彼が何をしたのかはわからないけれど、私の記憶にあるラヴァウム家は、「今」の歴史には存在しなくなった。

もちろんこの世界にもラヴァウムという家、クウザという人間は存在する。
でも家伝の魔導器を扱う一族なんかではなく、クウザはマッカの片隅でやせた土地を耕す温和な少年だし、姉は「ひとりだけ」。
ユーマに添うことを決めた私という要素を、これ幸いと切ったらしい。

その事実を確認した時、もちろん驚愕したし、怯えもした。
でもその私が驚くほど、ユーマは自分のそばに私をおいたことで、私を還る場所の無い者にしてしまったと激しく後悔した。
何度も何度もすまない、と謝られた。その狼狽えように逆に私が落ち着いてしまったほどだ。

―うん、でもお前が失くしたものは、俺が代わりになったり、返したりできないものばかりだ。


そう、確かに。失っていればもう取り戻せないものばかりだ。
一緒に数度の巡りを迎えた今もなお、彼が悔いを残すほどに。

でもほんの少し前から、私の中には一つの仮説がある。
異世界から来たという和臣やヘーニルにも相談して、十分に可能性があると支持してもらえたものだ。

並行世界―別の可能性をたどった同一世界という概念がある。

これまで私はそんな世界の一つにいた。魔導器を預かるラヴァウム家がある、ブリアティルトだ。
そしてオーファムが特定の事象を調整したブリアティルトが存在する。
このほかにも、さまざまな差異を見せるブリアティルトが無数に存在するのではないか。

そし997年以降も本来は決して交わらないはずの歴史が、黄金の門によってつながったのではないか。
黄金の門がどのような法則で動いているかは不明だが、現在はオーファムの調整が歴史に反映されていて、私は和臣たちと同じく「異世界」から来た存在として認識されているのではないか。

そもそもこの世界の過去の歴史に発生の記録がない私は、本来存在していないはずなのだ。
だけど私はここにいる。ゆえに私が生まれた記録を持つ世界は存在する。
私は何も失ってはいないのだ。

そして。
黄昏の領域の刻碑石にその名を刻まれた者だけが、その自身の歴史を選択できるのではないか。

記憶をなくし巡りに流されるのを選ぶ事も、
彼のように記憶を持って巡ることも、
巡りの輪から外れ、1001年を迎えることも、彼らだけが決定できるのではないか。

彼がお父様から受け継いだ家伝の伝授状況が、巡りの初めでリセットされないのは、彼が「そう望んでいる」からではないか。
ユーマが「そう望んでくれた」から私は彼の巡りに存在するのではないか。

まだまだ粗は多く、修正されるべきところは多いし、検証のしようもない仮説だけれど。
自分が彼に「望まれている」ことが前提のこの仮定を、私は正しいと思うことにした。
そう、きっと正しい。

今までは私の中に確信の無い、慰めのような言葉でしか答えられなかったから、ユーマはいつまでも不安で謝り続けてきた。
でもこれを話せたら、きっと落ち着いてくれるだろう。

―そうね、でも私は失くしたりしてないわ。今は確かに逢えないけど、失ってはいないの。最近分かってきたのよ。
―どういうことだよ?
―説明が長くて難しい話だけど、聞く?


覚悟して聞いてみたが、イルハの話はやっぱり難しかった。
一通りの話のあと、分かってなさげな俺の雰囲気に、やっぱり、と苦笑して俺によりかかってきた。

―えっと、ラヴァウム家発生という「島」から997年て言う「島」にかかっていた、私がいた歴史の「橋」を外して、オーファムは自分の作った「橋」を架けちゃったの。
―でもオーファムは私のいた橋をぽいっと捨てちゃっただけで、消滅させていないから、どこかにまだあるのよ。
―997年て言う島にはあなたがいて、私と一緒にいてくれるって言ったから、私はその橋から抜け出したの。和臣たちが異世界から来たみたいにね。

だから私は何も失くしてないの、と俺の手を握ったイルハは今まで謝った時のいつよりも落ち着いていて、それを確信しているようだった。

―えーと、俺が望んだから、イルハはここにいるんだよな。
―そうよ。
―寂しくないか?
―ないわ。

心底ほっとした。
怒りは鎮められる、苦しみは取り除ける、悲しみも乗り越えられる。でも寂しさだけは紛らわすことしかできない。だから俺はそれが怖かった。

でも失くなってないのなら、いつか帰ることができる。
現在が俺の意思の反映というなら。
彼女が望み、俺が受け入れれば、イルハは元の世界に戻れるのだ。

―よかった。なあ、・・・

帰りたいか、と聞こうとして、口をつぐんだ。
俺がそれを言ってしまったら、終わってしまうのではないか。
イルハは寂しくないといった。今のまま、いてもいいということだろう。
俺が言わなければ、ずっとこうしていられるのだ。

そうだ、それがいい。絶対に言うものか。
これがきっと独占欲というやつだろう。悪いことをしているみたいな変な心持ちだけど、悪くない。


―しかし、オーファムはすっごいことしたんだな。
―ふふ、そうね。

言いかけた言葉を無理やり切り替える。
そう、奴は他者の過去を塗り替えるという変なことをしたのだ。良し悪しはともかくすごいやつなのだろうと思う。

今はどんな暮らしをしているのだろうか。
一緒にいた娘は元気だろうか。
ガラハはどうなったのだろうか。

―あ、そういや俺、もしあいつが見つかったら、一発ぶん殴ろうと思ってたんだ。
―珍しいわね、あなたがそんなこと言うなんて。なにかあったの?

イルハのことを斟酌しなかったのにも腹は立ったが、彼女が良いというなら、置いておこう。
でも他にも、奴のおかげで叶わなかったことがある。


ふと思う。彼女が「帰ることを望まないように」と俺が望んだら、それもその通りになるのだろうか。
振り向いたイルハを、試しにそう願いながら抱きしめ、苦笑する。


―クウザの兄貴になり損ねた。
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プロフィール

草加 涼平

Author:草加 涼平
クトゥルフ同人サークル『ユゴス寄りの者たち』の構成要素。

『英雄クロニクル』
サクセス・ハンゲ鯖
「TRPG(1024)」「暁と黄昏(16s9)」で活動中。

『刀剣乱舞』
相模国 歌仙沼在住。

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